溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
胸の鼓動が忙しなく動き始め、ドキドキしていることに気づかれたくなくて回れ右をする。

そのまま歩を進め、ドアノブに手を掛けた時――。

「佐野」

呼び止められ動きが止まる。そのままゆっくりと振り返る。

「岡本さんのことは、責任を持って治療にあたるから安心して」

「あ……うん。お願いします」

ペコリと頭を下げた後、佐々木君は眩しい笑顔を見せた。

「それとお前には悪いけど、今、このタイミングで再会できて嬉しいよ」

「――え」

嬉しい……? それってどういう意味?

聞こうとしたけれど、ちょうど彼の白衣のポケットに入っているPHSが鳴った。

「それじゃ佐野、また」

「あっ……」

そう言うと佐々木君は電話に出て話をしながら、診察室から出て行った。

「行っちゃった……」

ひとり残された診察室内に響く漏れた声が信じられなくて、ギョッとしてしまう。
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