溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
そう思うと告白しなくてよかったと思う反面、チクリと胸が痛む。

胸の痛みを誤魔化すようにおつまみに箸を伸ばすと、先生の左手が視界に入る。

「先生、ご結婚されたんですね」

先生の左手薬指には指輪がはめられていたから。すると先生は照れ臭そうに右手で左手薬指を撫でた。

「あぁ、五年前にな」

五年前……。そう、だよね。先生の年齢なら結婚して当たり前だよね。

「子供もひとりいるんだ。そしてもう少しで二人目が生まれる」

「え、すごい。おめでとうございます」

「サンキュ。……見るか?」

そう言うと先生は嬉しそうにスマホを取り出し、二歳くらいの男の子とお腹が大きい奥さんが写った写真を見せてくれた。

「可愛い。……それに奥さん、綺麗な方ですね」

「まぁな、先生にはもったいない人だ」

そう話す先生に笑ってしまった。

突然の再会にびっくりしちゃったけれど、やっぱり私にとって先生は初恋の人なんだ。もう過去になっている。

だって先生から奥さんや子供の話を聞いても、嫌な気持ちにならないから。
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