溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
「そっか。……よかったよ、佐野が幸せそうで」

安心したように言うと、先生は顔を綻ばせた。

「そのある人は、お前にとって大切な人なんだろうな。……今の佐野、いい顔をしている」

大切な人――。うん、そうなのかも。私にとって佐々木君はもう大切な人なのかもしれない。

こんなに好きって思えたのは、佐々木君が初めてだから。先生にも抱いたことのない醜い感情を持ってしまったのも、全部初めて。

「だったら言いたいことはちゃんと言えよ? 佐野は昔から我慢するところがあるからな。今もまだそうじゃないのか? ……時にはわがまま言ったっていいんだ。行動力も必要だからな」

「先生……」

先生も気づいてくれていたんだね、私のダメなところを。たくさん生徒はいるのに今でも覚えてくれていたのがすごく嬉しい。

それだけで高校三年間、先生のことを想ってきた私の気持ちが報われた気がした。

「まぁ、そこが佐野のいいところでもあるんだけどな。……でもな、佐野」

そう言うと先生は真っ直ぐ私を見つめた。

「大切な相手こそ、思ったこと、感じたことは素直に言わないと。あとからじゃ遅いんだ。伝えた時に伝えないと届かない」

先生の言葉が胸の奥深くに突き刺さる。まるで今の私に言われているようだから。
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