溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
バランスを崩しそうになり、さらに強い力で手を握られ心臓が飛び跳ねる。

だめだ、早く中に入らないと私の心臓が持たないよ。先に降りた彼に受けとめてもらい地面に降り立つとホッとした。

けれどそれも束の間、佐々木君は私の手を握った。

「暗いから気をつけて」

「え、いやあのっ……!」

私の手を引き先に歩き出した佐々木君に、再び心臓が暴れ出す。

佐々木君は私を心配して手を繋いでくれたのかもしれないけれど困るよ。繋がれた手が熱くて胸が苦しい。

佐々木君はなんとも思わないの? 私とこうして手を繋ぐことを。

そう思うとなぜか切ない気持ちになる。

でも私も佐々木君もお互い二十八歳だもの。高校生じゃあるまいし、手を繋ぐことなんて、なんとも思わないのかも。

私は高校時代、ずっと先生に片想いをしていて、大学時代もずっと引きずっていた。気持ちがなくなってからは仕事に打ち込むばかりで、恋愛する余裕もなくて……。

だからこうして男の人と手を繋ぐだけで、いっぱいいっぱいになる。

けれど佐々木君は違うのかな。高校を卒業してから十年の間に、誰かを好きになった? 彼女ができた? 手を繋いで抱きしめ合ってキスをして、それ以上のこともしている?
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