溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
『環奈―? 久しぶり、元気?』

「久しぶり。元気だけど……どうしたの急に」

変わらない砂羽の声色にホッとしながら尋ねると、彼女はあっけらかんと言う。

『実は旦那と喧嘩しちゃってさー。離婚する勢いで家を出てきちゃったの』

「……は?」

陽気な声からは想像できなかった内容に、間抜けな声が漏れる。

「離婚する勢いでってどういうこと? 散々ノロケていたよね?」

それなのにどういうこと?

周囲にチラチラとみられながらも、声を荒げて問うと砂羽は笑いながら言う。

『いや、ちょっと色々あってね……。だからさ、環奈。悪いんだけどしばらく泊めてくれないかな?』

「泊めてって……嘘でしょ?」

『お願い!! おばあちゃんのお手伝いなら、なんでもするからさ!』

必死にお願いしてくる砂羽に、これは冗談ではなく本気で家を出てきたのが伝わってくる。

砂羽の旦那さんは直属の上司で、なんでも社内ではエリート街道まっしぐらなエリートだとか。

砂羽の片想いが実り、寿退社した。

結婚の報告をした時の彼女は本当に幸せそうで、結婚式で見たふたりは互いを愛し合っているんだと感じたのに。一体なにがあったのだろうか。

なにはともあれ、友達の一大事に放ってなどおけない。
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