溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
話を最後まで聞かず、砂羽はいきなり私の腕を掴むと歩き出した。

「ちょっと砂羽!?」

「お世話になったおばあちゃんの一大事に、顔を見せないわけにはいかないでしょ!? 環奈、病院はどこ!?」

「佐々木総合病院だけど、でも……」

砂羽も知っているでしょ? そこは佐々木君の実家で、彼が勤務している病院だって。

言葉を濁したものの、彼女は聞く耳持たず私の腕を引っ張っていく。

「了解! 急ごう」

あぁ、これは砂羽……佐々木躁病病院が、佐々木君の勤め先だってことをすっかり忘れている。

昔からなにかひとつのことに突っ走ると、他のことまで頭が回らなくなるところがあったから。

途中、説明する機会も与えてくれず、砂羽はキャリーケースと私の腕を引きながら病院へと向かった。


「あら、砂羽ちゃんじゃないの。久しぶりね、元気だった?」

「お久しぶりです。私よりおばあちゃんですよ! 大丈夫なんですか?」

病院につくなり、詰め寄る砂羽におばあちゃんはクスリと笑みを零した。
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