溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
「遅くなっちゃった」

歩を進めながら腕時計を見ると、時刻は二十時過ぎ。定時から二時間も過ぎている。

今日は早く帰れるって言ってきたのに。連絡もできなかったから心配させちゃっているよね。

仲が良い両親の元に生まれた私は、ずっと幸せに暮らしてきた。けれどそれは小学六年生まで。

お母さんに病気が見つかり、二年の闘病生活の末……亡くなった。

悲しくて辛くて。それはお父さんも同じだった。

『ふたりで頑張って生きていこう』

そう言っていたお父さんは、二年後にあっさり再婚。相手には私より七歳下の女の子がいて、家族四人での新しい生活が始まった。

当時の私は高校一年生で多感な時期だった。妹はすぐに新しい生活にも慣れていたけれど私は違った。

お母さんのことが大好きだったし、お母さんは最後まで私とお父さんの心配をしていた。

そんなお母さんを献身的に支えていたお父さんのことも好きだったのに、あっさり再婚してしまうなんて……お母さんが可哀想に思えて、私は家に帰りたくなくて、よく遅くまで学校に残っていた。
< 9 / 279 >

この作品をシェア

pagetop