溺愛診察室~一途な外科医に甘く迫られています~
私はただ、毎年桜の季節になると思い出すだけで、噂で彼が医学部に進学し、実家の佐々木総合病院に勤めているとしか知らなかった。

ううん、知ろうとしなかったし、こうして会いにくるタイミングはいくらでもあったのに敢えて避けていた。

約束を覚えているのは私だけかもしれない。十年も先のことだもの、忘れて過ごしているかもしれないと思ったから。

それなのに違った。……佐々木君は、お母さんが亡くなって二年で再婚したお父さんや、あんなに先生のことが好きだったのに気持ちが消えた私とは違う。

ずっと私のことを想ってくれていたなんて――。

気持ちが溢れ出し、ポロポロと涙が零れ落ちた。

「え、佐野?」

途端に佐々木君は慌て出し、私の手を掴んでいた手を離すとポケットからハンカチを取り私の涙を、そっと拭ってくれた。

「ごめん、俺……嫌なこと言った?」

そしてどこまでも優しい彼にさらに涙が溢れそうになり、首を横に振った。

「違うの。……なんか、なんて言ったらいいのかわからないんだけど、佐々木君に申し訳なくて」

「どうして?」
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