まずはお友達から〜目が覚めたらタイプの人に付き合って欲しいといわれました
5.彼女という存在 side.空
初めて小説を書いたのは、高校生の時。

元から本を読むのが好きで、実際に書いてみようと思ったのはただの気まぐれだった。

全部で1万文字にも満たない、ただの独白の様な短編だったが、一つ作品を完成させた事に喜びを覚えた。

それから大学の文学部へ行き、その時書いたものがたまたま編集者の目に止まった事であれよあれよという間に本を出す事となった。

現役学生が書いた不思議な世界観の短編集と話題になり、まさかのヒット。俺の名はそれなりに知られる事となった。

今思えばそれで天狗になっていたのだと思う。
その後も何作か長編を発表するも、最初に出したヒット作のおかげでそれなりに売れるが、正直泣かず飛ばず。

それでもまだ若かった事もあり、持ち前のバイタリティでどんどん作品を生み出していった。むしろ浮かび上がる構想についていけない程だった。

それが徐々に無くなってしまったのはいつからだったろうか。
自分が納得していればそれでいいと思っていた自信も薄れ、世間は俺をスランプと言った。

正にその通りだと思った。
何故なら全く浮かび上がらなくなったからだ。

そんな状態になってあっという間に2年という月日が経った。
ここでやっと、一度離れた方がいいのかもしれないという考えに至る。

そう思うと途端に肩の荷が降りて、色々な事に挑戦したい欲が出てきた。

まず服を買いに行き、ずっと黒だった髪を派手な色に染め、調理器具を揃えて料理を始めてみた。

他にも仕事仲間と居酒屋を巡ったり、一緒に旅行したり、たくさん映画を見たり。

でも今思えば、全て小説のためだったのかもしれない。
俺は何かきっかけになる様なものを探していたのかもしれない。

その日、俺は行きつけの居酒屋を出て、家路についていた。
いわゆる華金というやつで、沢山の人が往来している。

人混みを避けながら歩いていたら、やけに楽しげな声がした。

「玉置さん本当に大丈夫ー?そっち方面誰もいないけどー!」

「はーい!大丈夫でーす!
さっき吐いたら元気になりましたー!」

本当に大丈夫かよー!という笑い声が聞こえる。酔っ払い同士の無事の確認程、信頼出来るものはない。

結局一人になった方の女性はふらふらとした足取りで駅の方へ向かっている様だった。
ちょうど帰り道というのもあるが、つい心配でその後ろをゆっくりめに歩く。

そして結局その女性は、腰の高さ程の花壇に腰掛けてしまった。
ふう、と上を向いて一息をつく。

その横顔を見た時、素直に可愛いなと思った。
俺もその時程よく酔っていたし、気が大きくなっていたのだと思う。心が思うままに話しかけていた。

「大丈夫ですか?」

彼女が俺に気づいてこちらを向いた。

「わ、イケメンだ!
もしかしてナンパですか!?」

「えっ」

確かにこれはナンパだと自覚する。
女性経験はそれなりにあるけれど、こうして自分から声をかけたのは初めてだった。

「はい、そうです」

そして素直に認める。すると彼女はにこにことしながら言った。

「嬉しい〜最近嫌な事ばっかりだったから、こんなイケメンさんにナンパしてもらえて光栄です〜」

まるで子どもの様に間伸びした声で言われて、ドキリと心臓が弾んだ。
やっぱり、可愛い。

「ねえ、イケメンさん。ここからお家近い?」

「え!?あ、まあ」

これはもしや、という期待が膨らむ。

「私帰りたくないというか帰れないというか…何かもう訳分からないんであなたのお家に連れてってもらえません?」

色々面倒くさくなったのか、最後らへんは早口で捲し立てる様に彼女は言った。
ここは普通なら紳士的にタクシーで彼女を送り届けるべきだろうが、俺はこの瞬間を逃したくないと思った。

「いいですよ」

そう言うと、彼女は両手を上げてやったー!と言った。

その後は部屋に入るなり彼女に押し倒され、これはもうしょうがないだろうと思ってキスをしようとしたら泣かれ、急に服を脱ぎ出して形のいい二つの膨らみを慌てて隠して服を着せて…という一悶着を終えて彼女はすぐに眠ってしまった。

全てがイレギュラーで俺はすっかり楽しんでいた。
この様子だとどうせこの一部始終は覚えていないだろう。
明日の朝、一体どんなリアクションをするのだろうかと、ワクワクしながら彼女の隣で眠りについた。
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