まずはお友達から〜目が覚めたらタイプの人に付き合って欲しいといわれました
会社終わりに彼のマンションに訪れる。
まさか昨日の今日で来るとは思っていなかったのだろう、終始慌てた様子の彼が私を出迎えた。
「ごめんね、昨日は取り乱しちゃって」
「…いや、それは俺のせいだから君が謝る事じゃ」
「ねえ、今書いてるっていうやつ、ちょっとだけ読ませてもらえない?」
「え?」
彼の目が丸く見開かれる。
そして気まずげに目を逸らす。
「でも、俺もうこれやめようと思っていて」
「じゃあ尚更」
私がそう言うと、彼がおずおずと仕事部屋に案内してくれた。
「ここから読めばいいの?」
「…うん」
私はゆっくりと目を通していく。
そのお話は、ずっと自分探しの旅に出ていた主人公が、とある小さな村に訪れた事をきっかけに自分を見出し、やりたい事が見つかるまでのストーリーという感じだった。
そこに出てくるヒロインが、恐らく私に寄せているのだろう。
確かに言葉遣いや考え方が何だか似ている。
ただ私より感情の表現が素直なのは脚色か、はたまた彼の願望か。
そんな事を考えつつ、あっという間に読み進めていた。
小さなトラブルがありながらも乗り越えていく主人公、理解者や仲間が増えてどんどん一致団結していく流れは、どうしたって引き込まれてしまう。
そしていよいよ主人公のやりたい事が見つかりそうな所で、執筆は止まっていた。
ちょっとどころか全て読み切ってしまい、気付けばかなりの時間が経過していた。
慌てて彼がいるであろうリビングに向かう。
恐らく私の事が心配なのと、余程疲れていたのだろう、彼はソファーで眠っていた。
私は膝を折って彼の横に座り、頬を突いてみる。
「え!?あ、寝てた!?」
「お待たせ。ごめんね。
楽しくって、ついあっという間に読んじゃった」
彼の呆けた顔が私を見つめる。
「楽し、かった…?」
「うん。
私と出会っただけでこんないい作品が書けるなんて、少し嬉しくなっちゃうくらい」
「雪ちゃん…触れても、いい?」
「…うん」
彼が起き上がり、恐る恐る私に手を伸ばす。
そしてぎゅっと抱きしめられた。
「ごめん…傷付けて」
「ううん…私も、あなたの書いているものを何も知らずに利用されたなんて怒って、ごめん。私こそ傷付けた気がする」
「そんな事はない。全然。全くだよ」
彼が更にぎゅっとしてきて、私はそっと口を開いた。
「お願い、続けて。
こんなに面白い作品を世に出さないなんて勿体無いよ」
「…でも」
「私達の物語は、私達だけの中にあるんでしょう。きちんとその約束は守られてる。
私は私の知らない所で勝手に使われたかもしれないというのが嫌だっただけ」
「うん…きちんと君に言えば良かったんだ。
反省してる。本当にごめん」
「うん、分かった。もういいわ。
だから今は、とにかくあなたを感じさせて」
そういえば彼の激務のせいでこうして触れたのは久し振りだ。
匂い、硬さ、大きさを感じながら、ああやっぱり好きだなあと実感したのだった。
まさか昨日の今日で来るとは思っていなかったのだろう、終始慌てた様子の彼が私を出迎えた。
「ごめんね、昨日は取り乱しちゃって」
「…いや、それは俺のせいだから君が謝る事じゃ」
「ねえ、今書いてるっていうやつ、ちょっとだけ読ませてもらえない?」
「え?」
彼の目が丸く見開かれる。
そして気まずげに目を逸らす。
「でも、俺もうこれやめようと思っていて」
「じゃあ尚更」
私がそう言うと、彼がおずおずと仕事部屋に案内してくれた。
「ここから読めばいいの?」
「…うん」
私はゆっくりと目を通していく。
そのお話は、ずっと自分探しの旅に出ていた主人公が、とある小さな村に訪れた事をきっかけに自分を見出し、やりたい事が見つかるまでのストーリーという感じだった。
そこに出てくるヒロインが、恐らく私に寄せているのだろう。
確かに言葉遣いや考え方が何だか似ている。
ただ私より感情の表現が素直なのは脚色か、はたまた彼の願望か。
そんな事を考えつつ、あっという間に読み進めていた。
小さなトラブルがありながらも乗り越えていく主人公、理解者や仲間が増えてどんどん一致団結していく流れは、どうしたって引き込まれてしまう。
そしていよいよ主人公のやりたい事が見つかりそうな所で、執筆は止まっていた。
ちょっとどころか全て読み切ってしまい、気付けばかなりの時間が経過していた。
慌てて彼がいるであろうリビングに向かう。
恐らく私の事が心配なのと、余程疲れていたのだろう、彼はソファーで眠っていた。
私は膝を折って彼の横に座り、頬を突いてみる。
「え!?あ、寝てた!?」
「お待たせ。ごめんね。
楽しくって、ついあっという間に読んじゃった」
彼の呆けた顔が私を見つめる。
「楽し、かった…?」
「うん。
私と出会っただけでこんないい作品が書けるなんて、少し嬉しくなっちゃうくらい」
「雪ちゃん…触れても、いい?」
「…うん」
彼が起き上がり、恐る恐る私に手を伸ばす。
そしてぎゅっと抱きしめられた。
「ごめん…傷付けて」
「ううん…私も、あなたの書いているものを何も知らずに利用されたなんて怒って、ごめん。私こそ傷付けた気がする」
「そんな事はない。全然。全くだよ」
彼が更にぎゅっとしてきて、私はそっと口を開いた。
「お願い、続けて。
こんなに面白い作品を世に出さないなんて勿体無いよ」
「…でも」
「私達の物語は、私達だけの中にあるんでしょう。きちんとその約束は守られてる。
私は私の知らない所で勝手に使われたかもしれないというのが嫌だっただけ」
「うん…きちんと君に言えば良かったんだ。
反省してる。本当にごめん」
「うん、分かった。もういいわ。
だから今は、とにかくあなたを感じさせて」
そういえば彼の激務のせいでこうして触れたのは久し振りだ。
匂い、硬さ、大きさを感じながら、ああやっぱり好きだなあと実感したのだった。