まずはお友達から〜目が覚めたらタイプの人に付き合って欲しいといわれました
2.お友達開始
「ん?雪、珍しいわね。化粧直してるなんて」
帰り支度をしていたら、同僚のゆりなに声をかけられた。背中に汗をかく。
「いつも帰るだけだからとか言ってグズグズのままでも帰るのに。なになに、今日合コン?」
「…ま、まあ」
「えー!」
ゆりなの目が輝く。そして何故か瞳に涙をためてそっと人差し指で拭い始めた。
「ずっと恋愛とかどうでもいいとか言ってた雪が…ねえ、明日赤飯でも持って来ようか?」
「う、うるさいなあ。じゃあお先に!」
これ以上からかわれてたまるかと、急いで会社を後にする。
大学を卒業して広告代理店のOLとなってもうすぐ5年。年齢も27歳になって、周りもぼちぼち結婚し始めた。
最後にした恋愛は大学生の時で、3年程お付き合いをしたけれど、所謂倦怠期というやつを乗り越えられずに別れた。
あんなに大好きだったのに、最後らへんはお互い冷めきっていたのがトラウマというか、こんなに嫌になってしまうんだというのが辛すぎて、しばらく恋愛はいいかなと避けていた。
そして気付けば27歳。ゆりなも婚約中で、彼氏さんの友達や関係者を何度も勧めようとしてきたが、全てお断りしていた。
だからゆりなには私が向かっている場所が本当は合コン会場ではない事は、口が裂けても言えない。
「こ、こんばんは」
『あ、いらっしゃい。今開けるね』
立派なエントランスに彼の声が響く。機械音がした後、自動ドアが開いた。
このしっかりとしたセキリュティといい、中々にいいマンションに住んでいると思う。
その最上階までエレベーターで行って、もう一度インターホンを押すと、近づいてくる足音がした。やがて扉が開く。
「こんばんは、来てくれてありがとう」
「いえ…近いですし」
どうぞ、とあの和やかな表情で案内され、とずおずと入室する。
今回で二回目だというのに、初めて訪れた感が否めない。普通に緊張してしまう。
「この間とは全然違うね。まるで猫みたい」
「…あ、当たり前です!」
思わず顔が熱くなる私を見て、彼は揶揄う様に笑う。
彼の名前は林田 空。
31歳。派手な頭の色と割と童顔なせいで、4つも年上とは思わなかった。
この間の一件でお友達になり、連絡先を交換し、今日遊びに来ないかと誘われて私はやって来た。
「ご飯まだだよね。
今作ってる所だからちょっと待っててね」
「え、料理出来るんですか?」
「つい最近始めてみた」
何か不穏な言葉を聞いた気がする。
そう思って彼の後をついて行き台所を見てみると、見事にカウンター上がぐちゃぐちゃで、一体何を作っているのか分からない。
「…少し、手伝いましょうか」
「あ、本当?助かる」
一応働いてからは一人暮らしをしているので、上手という程でもないが覚えはある。
肉じゃがを作ろうとしていると聞いてマジかと思いつつも、彼に切り方を教えたり、最終的な味付けを担当したりして、何とか完成した。
肉じゃがとご飯、という大変シンプルなメニューではあるが、他のものまで作っていたら何時になるか分からないので、私達はそれらを机に置いて食べ始める。
「えっ美味しい。初めてそれっぽいの作れた」
「今までどうやって暮らしてきたんですか?」
「出前とか、コンビニとか、お弁当屋さんとか」
「…体壊しますよ?」
彼は在宅ワーカーらしい。
昔から仕事漬けの毎日で生活力が皆無らしく、最近落ち着いてきたので徐々に色んな事に挑戦しているそうだ。
「俺には向かなさそうだから止めようかと思ったけど、美味しく出来ちゃうと嬉しいね。
また一緒に作ろうよ」
「ええ、いいですよ」
確かに中々美味しく出来た。ほくほくのじゃがいもを頬張っていると、彼の動きが止まっている事に気付いて目線をあげる。
彼がこちらをじっと見つめていた。
「な、なんでしょう」
「敬語、気になるなあ」
思わず心臓がどきりと弾む。
「別にタメ口でもいいんだよ?」
「いや、でもあなた歳上だし…私前科というか、あなたに大変大きな借りがありまして、馴れ馴れしく出来ないというか…」
「お友達から、って言ったのは君だよね?
砕けた話し方にしてもらわないと嫌だなあ。
めちゃくちゃ他人行儀な感じするんだけど」
「えー…」
私は渋々といった感じで「…分かった」と返した。
それを確認した彼は大変ご満悦そうに再び食べ始める。
彼は人をリードするのが上手だ。
知らない内に絡め取られている気がする。
帰り支度をしていたら、同僚のゆりなに声をかけられた。背中に汗をかく。
「いつも帰るだけだからとか言ってグズグズのままでも帰るのに。なになに、今日合コン?」
「…ま、まあ」
「えー!」
ゆりなの目が輝く。そして何故か瞳に涙をためてそっと人差し指で拭い始めた。
「ずっと恋愛とかどうでもいいとか言ってた雪が…ねえ、明日赤飯でも持って来ようか?」
「う、うるさいなあ。じゃあお先に!」
これ以上からかわれてたまるかと、急いで会社を後にする。
大学を卒業して広告代理店のOLとなってもうすぐ5年。年齢も27歳になって、周りもぼちぼち結婚し始めた。
最後にした恋愛は大学生の時で、3年程お付き合いをしたけれど、所謂倦怠期というやつを乗り越えられずに別れた。
あんなに大好きだったのに、最後らへんはお互い冷めきっていたのがトラウマというか、こんなに嫌になってしまうんだというのが辛すぎて、しばらく恋愛はいいかなと避けていた。
そして気付けば27歳。ゆりなも婚約中で、彼氏さんの友達や関係者を何度も勧めようとしてきたが、全てお断りしていた。
だからゆりなには私が向かっている場所が本当は合コン会場ではない事は、口が裂けても言えない。
「こ、こんばんは」
『あ、いらっしゃい。今開けるね』
立派なエントランスに彼の声が響く。機械音がした後、自動ドアが開いた。
このしっかりとしたセキリュティといい、中々にいいマンションに住んでいると思う。
その最上階までエレベーターで行って、もう一度インターホンを押すと、近づいてくる足音がした。やがて扉が開く。
「こんばんは、来てくれてありがとう」
「いえ…近いですし」
どうぞ、とあの和やかな表情で案内され、とずおずと入室する。
今回で二回目だというのに、初めて訪れた感が否めない。普通に緊張してしまう。
「この間とは全然違うね。まるで猫みたい」
「…あ、当たり前です!」
思わず顔が熱くなる私を見て、彼は揶揄う様に笑う。
彼の名前は林田 空。
31歳。派手な頭の色と割と童顔なせいで、4つも年上とは思わなかった。
この間の一件でお友達になり、連絡先を交換し、今日遊びに来ないかと誘われて私はやって来た。
「ご飯まだだよね。
今作ってる所だからちょっと待っててね」
「え、料理出来るんですか?」
「つい最近始めてみた」
何か不穏な言葉を聞いた気がする。
そう思って彼の後をついて行き台所を見てみると、見事にカウンター上がぐちゃぐちゃで、一体何を作っているのか分からない。
「…少し、手伝いましょうか」
「あ、本当?助かる」
一応働いてからは一人暮らしをしているので、上手という程でもないが覚えはある。
肉じゃがを作ろうとしていると聞いてマジかと思いつつも、彼に切り方を教えたり、最終的な味付けを担当したりして、何とか完成した。
肉じゃがとご飯、という大変シンプルなメニューではあるが、他のものまで作っていたら何時になるか分からないので、私達はそれらを机に置いて食べ始める。
「えっ美味しい。初めてそれっぽいの作れた」
「今までどうやって暮らしてきたんですか?」
「出前とか、コンビニとか、お弁当屋さんとか」
「…体壊しますよ?」
彼は在宅ワーカーらしい。
昔から仕事漬けの毎日で生活力が皆無らしく、最近落ち着いてきたので徐々に色んな事に挑戦しているそうだ。
「俺には向かなさそうだから止めようかと思ったけど、美味しく出来ちゃうと嬉しいね。
また一緒に作ろうよ」
「ええ、いいですよ」
確かに中々美味しく出来た。ほくほくのじゃがいもを頬張っていると、彼の動きが止まっている事に気付いて目線をあげる。
彼がこちらをじっと見つめていた。
「な、なんでしょう」
「敬語、気になるなあ」
思わず心臓がどきりと弾む。
「別にタメ口でもいいんだよ?」
「いや、でもあなた歳上だし…私前科というか、あなたに大変大きな借りがありまして、馴れ馴れしく出来ないというか…」
「お友達から、って言ったのは君だよね?
砕けた話し方にしてもらわないと嫌だなあ。
めちゃくちゃ他人行儀な感じするんだけど」
「えー…」
私は渋々といった感じで「…分かった」と返した。
それを確認した彼は大変ご満悦そうに再び食べ始める。
彼は人をリードするのが上手だ。
知らない内に絡め取られている気がする。