お姉ちゃん
お姉ちゃん
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こうやって格好つけ、夜風に吹かれ、たそがれたい。そんな気分なお年頃。
風が少し冷たい。
ベランダの手すりに寄りかかり、お姉ちゃんの部屋からくすねた箱を、目の前に翳す。
白地に黒でロゴの描かれた煙草の箱、彼女の吸うものは、少し細い。
1本取り出して咥える。
火のついていないソレは、飴の棒に似ていた。
煙草を『食べる』と、死ぬなんて聞いたことがあるが、どうなのだろう。
今咥えている端から噛み千切って、咀嚼して、飲み込めば死ねるのだろうか。
彼女の吸う日常がわたしを殺してくれたら――なんて、くだらない。
女々しい感傷に、生温い被虐に、浸っている所も嫌なのに、直らないものだ、直りようのないものだ。
箱を振るとカサカサと煙草が鳴る。
減った分だけ彼女が吸った。
煙草をまるでクッキー扱いするあたり、彼女も何か変わっている気がしなくもない。
『毒は吸うもんじゃないよ』
前にちょうだいと言ったら言われた言葉。
風が力強く吹いて、髪と上着がはためいた。赤い透明なケースのライター。
「――クッ」
笑いが漏らしながら、わたしはそれを指先でクルクルと回した。
くわえ続けていた煙草は唾液がついて不快だったので吐き捨て、新しい煙草を1本取り出し、くわえる。
口元にライターを寄せ、点ける。
――ガシュン
飛び散った火花が指に触れ、わたしはとっさにライターと、煙草を落としてしまう。
カツンと乾いた音が鳴る。
ライターと煙草を拾う。
夜空の向こうにぼんやり浮かぶ綺麗な真ん丸お月様は、そんなわたしをくすくす笑う。
どうせお子様ですよ。
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