お姉ちゃん
お姉ちゃんのデコピンがわたしのおでこをピンと弾く。大袈裟によろめくマネをしてからぐでんと手すりに寄り添って、はあ…と大きな溜息を吐いたら、煙の混じった味がした。
そんなわたしを見たお姉ちゃんが何やら感づいたのか、悪戯っぽい笑みを浮かべながらわたしの頬を指先でぐりぐりと突っついてきた。
「なぁに、学校でなにか楽しいことでもあったの?」
「……どう見たら今のわたしが楽しげな姿に見えるのさ、お姉ちゃん」
「んぅー、そうねぇ。例えば、」
お姉ちゃんは煙草を咥えたまま、唇に人差し指を当てて思案気なポーズを取った。
お姉ちゃんは時々、こんな風に芝居がかった仕種をする。わたしがやったならひんしゅくを買いそうなそんな仕種も、お姉ちゃんがするならやたら画になる。いつだってお姉ちゃんは周りの風景を全部味方につける。世界はまるで、お姉ちゃんの為の物語であるかのようだ。
お姉ちゃんは数秒そんな仕種をしてから、閃いたとばかりにこちらに振り向き、
「彼氏でも出来たかっ!」
何て言い出すから、わたしは思わず肺に残った煙を全部吐き出してしまいそうな勢いでむせ返った。
涙目になりながらげほげほ咳き込むわたしの背中をさすりながら、お姉ちゃんはしたり顔でニヤニヤしている。
「図星かよぅ。んー、お姉ちゃんなんだか嬉しいような、寂しいような」
「ち、が。げほっ、違う! まだ! だし……」
「ふぅん。まだ? なにさ」
「……まだ、返事してないし」
「……へぇ」
お姉ちゃんは今まで見たこともない、まるで愉快な玩具を見つけたときの子供みたいな、そのくせ瞳の奥にはどす黒い何かが見え隠れする笑顔を見せた。
その笑顔を見てから初めてわたしは自分の失言に気づいたのだが、そんな後悔よりも、お姉ちゃんにバレて恥ずかしいって思いのほうが強かった。
恥ずかしいって、なにが恥ずかしいって言うんだろうね。
お姉ちゃんがけらけらと愉快に笑いながら煙を吐くと、その煙はドーナツみたいな輪っかを作って、ぷかりぷかりと宙を舞った。
「そっかぁ。アカネも、もうそんなお年頃かぁ。最近の高校生は、ほんとマセてんねぇ」
「わかんないの」
「うん?」
「なんで、わたしなんだろって。わかんないから、なんか。……やだな、って」