お姉ちゃん
ベランダの柵が少し軋むくらいにぐったりと持たれかかる。頬に当たるステンレス製の手すりがひんやりと心地よい。暗がりの何処かから猫の鳴き声が聞こえて、何処に居るかななんて目だけで探してみたけれど、ベランダ越しに広がる夜景は街頭と窓明かり以外みんな真っ暗で、猫なんて見つかりそうもなかった。
ちらりと横目でお姉ちゃんの顔を伺ったら、お姉ちゃんもわたしの真似するみたいに手すりに寄りかかりながら頬をくっつけ、視線は真っ直ぐにわたしほうを見つめていて、その表情は、まるで迷子の子猫を見つけたときのような微笑みで、何だかわたしは居た堪れなくなって思わずふいっと顔を背けた。
「好きなの? その子のこと」
「……わかんない」
「試しに付き合ってみればいいじゃない」
「そういうのも、なんかやだ」
「じゃあ聞いてみれば?そしたらわかるかも」
「……なにをさ」
「『わたしのどこが好きですか』って」
「あるわけないもん、そんなの」
「わたしの妹のくせに、なんでこんなんかなぁこの子は」
お姉ちゃんの妹だからですよ、なんて、口に出しては言えるはずもなく。
もうすぐ今日は明日になって、明日が朝になれば学校へ行かなければならない。
ただでさえ常日頃から億劫な時間が、明日からは何だか、更に憂いを帯びそうなそんな予感に押しつぶされそうで。
どうか神様お月様、願いを叶えて下さるならば。
わたしの全部をこのお姉ちゃんのように、物語の主人公のように変えてください。
そんな子供染みたお願いが叶うなんてことはありえないことは、高校2年生ならとっくに理解出来ようものだ。
部屋の壁にぶら下がる制服を見つめながら、早く大人になりたいななんて思うのだった。