お姉ちゃん
ついさっき登校したばかりの道を、今度は家に向かって歩いている。
こんなに早い時間に眺める帰りの道は新鮮で、光の加減なのか、いつもと同じはずの景色もなんだふわふわと浮ついて見え、まだお昼前の空気は涼しくて、どこまでも青い空を眺めたらこのままどこか遠くへ行ってしまいたいなって気分にもなる。
けれど行く当てもないし、脚もないし、きっとお姉ちゃんが心配するので、今日はやめておこうと思った。
家路に向けて歩いているとふと、学校の方角からパタパタと走るような足音が聞こえてきた。
遅刻した子かなとか思ったけれど、どうにも足音がこちらに向かっている気がしてならない。
おもむろに後ろを振り向くと、……げっ。長瀬くんが、こちらに向かって走ってきているではないか。
わたしは逃げるように走り出した、というか逃げた。走った。全力疾走のつもりだったけれど、長瀬くんはすぐにわたしの隣に追いついて、わたしの速度に合わせるように速度を緩めながら、やがてわたしが息を切らせてぜぇぜぇと立ち止まるまで隣を走っていた。
汗ひとつ流していない、涼しい顔で「大丈夫?」なんて聞かれて、帰宅部所属のわたしのプライドとかなんとかがボロボロにされた。とくに持ち合わせてもいないけれど。
「なに」
「ん。いや、そのさ。……ごめんな、東」
「……はぁ、なに、それ。謝るのは、こっち、でしょ……」
「俺さ、悔しかったんだ。東のいいところ、いっぱいあるのに。クラスの奴ら全然、気づいてないんだもん」
「……べつに気づかれたいとか、思ってないの。わたしは。ただ、誰もやらないから、仕方なくやってた、だけなの」
「それでもさ。それでも、やっぱ東はすげぇよ。そういうところが、好きだなって思う」
「だからぁ!」
わたしは手のひらを長瀬くんの肩に乗せて、上目遣いでじっと長瀬くんの目を睨み付ける。わき腹のあたりがめきめきと痛むのでこの姿勢でしか顔を上げられないのだが、何故だか長瀬くんは頬を赤らめながら視線をそらした。