銀狼と緋色のかなた
「おやおや、こんなところで若い男女のカップルに出会えるなんてね、こんな夜にいったい何をしてるのかな?」

突然、後方から中年男の低い声がした。その後ろには山賊風の柄の悪い男二人が顔を覗かせていた。

「お前らこそ何の用だ」

空月はかなたを自分の背中側に追いやると、男達に威圧するような声で言った。

「この辺に銀狼がいると聞いてね、ちょっと探していたんだ。他にも東の森から緋色眼の狼が逃げ込んだとの噂もあってね。君たちは見ていないかな?」

かなたは大きく首を振った。

「そいつらを探してどうするつもりだ」

「もちろん高額で売買するのさ。実物は見たことないが、もしも人狼なら更に高値で売買できるからね」

男達はニヤニヤと笑いながら二人に近づいてきた。

「それよりも,,,」

薄気味悪い代表格の中年男が、空月の後ろにいるかなたを見ながら低い声で言った。

「そのお嬢さんはずいぶんと綺麗な顔をしている。それに珍しい緋色の眼だ。西の街で働けばたくさん稼げるよ。一緒に来ないか」

それは誘いという名の脅迫だった。

「お兄ちゃんもなかなか男前だが、商売には邪魔だな」

ジリジリと!盗賊三人が空月とかなたの方へにじり寄ってくる。

かなたはこっそりと空月に隠していた緋刀を手渡した。

「空月、これを」

男達が飛びかかってきた刹那、空月がそのうちの一人の腕を切りつけた。

「うっ、このやろう!」

かなたを後方へ追いやった空月は、華麗なフォームで次々と3人を蹴り倒した。

3人が気を失い、反撃してこないのを確認すると、空月はかなたの方へ歩きだした。

「空月!危ない」

倒れたふりをしていた敵の1人がこっそりと起き上がり、背側から空月の背中を切りつけてきた。

振り向いた空月の脇腹を古びた短刀が切り割いたのが見えた。

カッとなったかなたの緋色の眼が光ると、その眼に凝視された男はその場に固まった。

かなたは、一瞬で男の脇腹を蹴りあげると首の横を叩いて気絶させた。
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