銀狼と緋色のかなた
青白い顔をした空月は、息も絶え絶えにかなたのベッドに倒れ込んだ。押さえつけていた左脇腹の傷は、止血はしていたものの傷口が赤く腫れ上がっていた。

空月の体も熱い。次第に熱が上がってきているようだ。長時間歩いたのが良くなかったのだろう。

かなたは、棚に保管されていた傷薬の効果のある薬草を取り出すと、水で戻してからそれを揉みほぐし、空月の傷口に押し付けた。

「うっ,,,」

苦しそうな空月の顔を見て、かなたも涙を浮かべる。

「ごめんね。空月,,,。痛いだろうけど我慢して」

熱にうなされる空月は、かなたの声が聞こえてはいないようだ。

「ねえ、空月、これを飲んで」

かなたは、傷口から侵入した細菌やウィルスの働きを抑え効果のある薬を液体状にして空月の口元にあてた。

朦朧としている空月の口元からは、薬がむなしくこぼれ落ちていく。


必死なかなたは、決死の覚悟で薬を口に含むと、口移しで空月に薬を飲ませようと試みた。

空月の開いた口から液体が侵入すると、ほどなくして空月の喉元が嚥下を始めた。

それを何度も何度も繰り返すと、ようやく空月の呼吸が落ち着いてきたのがわかった。

かなたは、ほっと一息つくと、ベッド脇に腰かけて安堵の溜め息をついた。

そして、ゆっくりと空月の綺麗な顔を撫でる。

満月が西の空に沈んだら、後ひと月は人形の空月には会えない。

しかも、一月後は運命のブラッディムーンだ。

かなたは、ベッドに横たわる空月の隣にそっと潜り込んで毛布を被ると、空月の体に腕を絡めて目を閉じた。

"今だけは何も考えたくない"

"愛しい空月、私を置いていかないで,,,。どうか私のそばにいて"

かなたの願いは言葉にならずに闇に溶けていった。

南の空には、まだ煌々と望月が光を放っていた。
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