銀狼と緋色のかなた
翌朝、かなたが目を覚ますと、空月は狼の姿に戻っていた。

昨日のことはすべて夢だと思いたかったが、今いるここは、かつてかなたの住んでいた村であり、狼姿の空月の左脇腹には昨日襲われた時にできた傷がまざまざと残されていた。

ナイフの刃には、おそらく何らかの毒が塗られていたのだろう。

薬草の効果で傷口の赤みは引いていたが、空月の容態は安定しておらず、再び高熱にうかされ、意識は朦朧としていた。

両親の書庫に行き、医学や薬草の本を開くかなた。

その後も、かなたは献身的に看病をした。消化の良い食事を作り、水分を取らせ薬を飲ませる。傷口の手当てをして、体を拭く。

それを繰り返して、ようやく空月の容態が安定したのは、それから3日後のことだった。



空月は、日に日に元気を取り戻していった。今では家の周りを歩き回ることができるようにまで回復していた。

西の森で暴漢に襲われたことは嘘であったかのように、この村での暮らしは穏やかだ。

ずっと昔から、緋色眼の人狼はこの村のご神木を中心として見えない結界を張って存在を隠してきたため、敵が襲来してくることはまずない。



ブラッディムーンが近づいていることを除けば、二人の生活は穏やかに過ぎていた。
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