銀狼と緋色のかなた
20歳になり、
はるかは両親の言いつけに従い、緋色眼の人狼の村を去った。
緋色眼以外の人狼の目撃情報をもとに、まずは北の町に向かった。
美しい容姿をもつはるかは、すぐに数人の男性の目に留まり、声をかけられたり、屋敷に連れ込まれそうになったりしたが、なんとか人混みに紛れて逃げ延びることができた。
食料を求めてさ迷ううちに、人の良さそうな老婦の家に居候をしながら働くことを認められ、やっと穏やかな生活を手に入れることができたと思った。
その矢先に、さらに北の方に碧眼の人狼が住む村があるとの情報を得た。
緋色眼の人狼の村を出て二ヶ月が過ぎた頃のことであった。
はるかは昼はおばあさんの店で働き、夜は男装して北の方にあるという村を探す、という生活を始めた。
体力も限界が近づこうとしていた,,,
碧眼の人狼の村にも、緋色眼の人狼の村のように結界が張られているのかもしれない。
村を出て4ヶ月過ぎても、はるかはその場所の手がかりを見つけることすらできずにいた。
そして、明日はブラッディームーンという日,,,。
それは、はるかが人狼になってしまうことを意味していた。
はるかはおばあさんにお礼をのべ、北の町から二キロほど離れたところにある"カナリアの森"と呼ばれるところを終の棲家にすることに決めて、西の町を去った。
翌日、緋色に輝く望月は、容赦なくはるかを狼に変えてしまった。
恋を知らず、狼になってしまったはるかの寿命は、長くても後5年程度だろうか。
人狼になった狼は、25歳を越えて生きることは難しい。
毎日、棲み家とした根倉
の周囲で、生きていく為に必要なだけの食料を狩り、張り合いもないまま毎日を過ごす。
そんなはるかの前にヒロトが現れたのは、はるかが人狼になってから10ヶ月が経過した頃だった。