銀狼と緋色のかなた

愛するということ

「…というわけで、僕ははるかに連れられてここまで来たんだ」

呆然と話を聞くかなたの顔を、銀狼の姿をした空月が見上げている。

その姿を緋色眼の狼である、はるかがじっと見ていた。

おそらく、二匹いや二人とも同じ想いでここにいるに違いない。

"ヒロトとかなたには、人狼にならずに幸せな未来を生きてほしい"

空月もはるかも、愛しい二人の幸せを祈ってこの村を去ろうと決意していた。

「ごめんなさい,,,」

突然のかなたの謝罪の言葉に、空月とはるかは首をあげて瞳孔を大きくした。

ヒロトだけはその言葉を予測したように表情を変えずに立っていた。

「私はあなたと運命を共にすることはできません。きっとヒロトさんも同じ気持ちでしょう」

ヒロトは切な気な表情をして頷いた。

「だって、もう私たちはそれぞれ運命の人に出会ってしまったんだから」

狼の姿をした空月の首にかなたが腕を巻き付けて顔を擦り寄せた。

同じように、ヒロトも狼のはるかを抱き締める。

「人として生きるためだけに寄り添おうとする見せかけの恋人では、運命は微笑まないよ」

ヒロトははるかに言い聞かせるように呟いた。

数日後に迫る望月に向けて、空に輝く月は下弦の月を呈していた。銀色の月は何もかもを見透かしているかのように頭上に輝いている。

二人の人間と二匹の狼は、遅すぎた出会いとどうにもならない運命に、ただただ、空に浮かぶ月を見上げるしかできなかった。
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