銀狼と緋色のかなた
かなたは、はるかが午睡を続けていることを確認してから、そっと庭に出た。

そして右手に緋刀を握りしめ、反対の手には小さなお椀を抱えてゆっくりとご神木に近づいた。

愛する両親が傍らに眠る御神木。

村の平和を結界で守ってくれている御神木。

大切な村の魂を傷つけるのだから、その報いにかなたが命を落とすことは仕方ないと思えた。

かなたは、自らの命を省みず身を呈して自分を守ってくれた空月や、自分の恋を後回しにしてでもヒロトとかなたのことを優先させようとしたはるか、その思いに寄り添って狼になることを選んだヒロトのことを、とても大切に思っていた。

かなたは、一旦、刀と器を地面に置くとご神木と両親の墓石に祈りを捧げた。

"神さま、私の命と引き換えに、どうか3人を明日、完全な人形に戻してあげて下さい"

"お父さん、お母さん、ゴメンね。こんなに早く二人のところに行くことになるけど許して"

祈りを捧げ終わると、かなたは立ち上がり、緋刀を鞘から抜いた。

「どうか3人をお救いください」

そう呟きながら、かなたはご神木に緋刀で傷をつけ、そこから溢れ出る樹液を器に集めた。
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