銀狼と緋色のかなた
かなたの両親の部屋に着いた2人は、あっけなく目的の書物を見つけた。

そして、この一連の出来事の顛末を知る。

緋刀を使って樹液を取り、それを使って人狼を人形に戻した者は、樹液の恩恵に預かることはできない,,,。

タイムリミットは、ブラッディムーンが西の空に消えていくまでの残り10時間。そのときが来たら、3人は永遠にかなたを失うことになる,,,


「やっぱり、かなたは自分だけ犠牲になるつもりでいたのね」

唇を噛み締めて、涙を浮かべるはるかをヒロトがそっと抱き寄せて言った。


「だけど、はるか、ほら,,,この破れたページが見つかれば、かなたを助けることができるんじゃないかな」

この部屋は、確か昨日の昼間に、かなたが長い時間をかけて書籍や文書を整理していたはずた。

破れたページをかなたが探さないはずはない。

きっとこの部屋には"それ"は残されていないのだろう。

だとすれば、考えられるのは、はるかの両親の部屋だ。

この村は"秘密は分散して管理する"という信念を貫き通してきた。

だからこそ、今まで、この村の存在や秘伝を世間に知られて荒らされることなく済んでいたのだから。

しかも、人狼に関わるこんな大切な秘密を一ヶ所に管理するはずはない。

きっとかなたの父親は、かなたの優しい性格を鑑みて、かなたが他の人狼を助けたいと思ったときに思い止まらせるために、かなたが救われる方法を隠すことで逃げ道を塞ぎたかったのだろう。

他の人狼の種族にこの事が知られれば、緋刀の持ち主であるかなたは命共々、その存在を狙われ、逃げ続ける運命に翻弄されていたに違いない。

もっとも、この書物の存在をかなたに知らせずに村から出る選択をさせた時点で、かなたの父親は、かなたに過剰な負担を背負わせたくなかったに違いない。

かなたがこの秘密を知っていたのなら、真っ先に人狼になってしまったかもしれないはるかを意地でも救いだそうと行動したに違いないから。
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