銀狼と緋色のかなた
ファイルに挟まれていた紙切れにはこう書かれていた。

かなたが見つけた書物の、欠けた最重要部分、

"ただし、神木を傷付けた緋色眼の狼の命を繋ぎ、人形を保つには,,,"

の続きである。

"緋刀の持ち主である緋色眼の人狼(主)により救われ、人形を保つことの出来た者のうち、心から主を愛する異性(己)が執り行う儀式が必要である"

ここでは、はるかでもヒロトでもなく空月を指すのだろう。

"緋刀で己の左腕の動脈を切りつけ、流れ出た血を主に飲ませた後、己の手によってご神鏡にブラッディムーンを映すこと"

"これにより主は命を吹き替えし、人としての人生を取り戻すことが出来るだろう"

と書かれていた。

動脈を切る,,,。

止血ができなければ死ぬことだってあり得る。

身を呈して己を救った"主の愛"に対する"己の愛"を試す儀式なのだろう。

心臓にもっとも近い左腕の動脈を切ることでその愛の深さを知らしめる。それがこの儀式の意図するものなのだろうか?

「ヒロト、空月とかなたをここに連れてきてくれる?」

はるかと一緒に破れた紙切れを読んでいたヒロトは、黙ってうなづくと神殿を出ていった。

残されたはるかのもとに、天井から薄明かりが流れ込んできた。

見上げるとそこは天窓になっていて、ちょうど天辺にブラッディムーンが位置する形となっていた。

"これは何かの運命を意味しているのだろうか"

空に浮かぶ、自分の瞳と同じ色の緋色の月を見つめて、はるかは大きく深呼吸をした。

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