銀狼と緋色のかなた
泉に残されていた空月は、だんだん弱っていく狼の姿のかなたを見て焦っていた。

"何か、かなたの命を繋ぐものはないか?"

と考えた空月は、ためらいもせず自分の血を分け与えることにした。

緋刀で、左手の親指の付け根を切り、吹き出した動脈血を杯4つに貯めた。

空月の父は西の町で医者をしていた。

動脈を傷付けてもしばらく圧迫していれば、小さな傷なら止血することを知っていた。

血が止まるまで直接圧迫をしたあと、シャツの裾を破って手首に巻いて間接的にも圧迫をした。

そして、少しずつ、少しずつ、空月の血を狼のかなたの口に流し込んでいく。

近づいてくる誰かの足音に気づいた空月は、ゆっくりと顔をあげて足音の主を見上げた。

「ヒロト」

血を与え続ける空月の様子を見て、

「驚いたな。自ら答えを見つけるなんて,,,。君のかなたへの深い愛を感じずにいられないよ」

と呟いた。

「答え?」

怪訝な顔をする空月にヒロトが告げた。

「かなたと一緒に来てほしい」

かなたに血を飲ませ終えた空月は、しっかりと狼の姿のかなたを抱き上げると、ヒロトについて竹林の奥に入っていった。



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