銀狼と緋色のかなた
久しぶりに調理された肉で空腹を満たしたかなたは、森の中を散策してみることにした。

誘ったわけではないが、のそのそとウォルもついてきた。

洞窟の近くには湖が広がっており、湖畔には綺麗な花も咲いている。

父の遺言を聞いてから既に一ヶ月が経過していた。
遺体の処理や自宅の後片付けなどであっという間に時間が過ぎていた。

重い腰をあげて村をあとにしたのが昨日。
次のブラッディムーンまで、後二ヶ月しかない。


かなたにはあせる気持ちもあったが、ウォルに出会う前までの昨日と比べると、その度合いが低下しているのがわかった。

動物とはいえ、心の支えを手にしたかなたには恋人探しなど正直どうでもよく思えていた。

ただの人間だったなら、かなたは恋を知らずに年を取っていたに違いない。かなたは半ば確信していた。

「ねえ、ウォル、私も狼だって言ったら信じる?」

湖の淵に腰かけて、両足を水に浸けたかなたがウォルに話しかけた。

ウォルはお座りの姿勢になり耳をピンと立て、片耳をピクピクさせた。まるで言葉がわかっているかのように見える。

「次のブラッディムーンまでに運命の人と結ばれないと
私も狼になっちゃうんだって。嘘みたいでしょ?」

ウォルはじっと座って聞いている。

「狼になったら、私をウォルのお嫁さんにしてくれる?それなら私、運命の人なんて会わなくてもいいかも,,,なんてね」

かなたは愛しそうにウォルの首に腕を回して抱きついた。ウォルは相変わらずじっと座ったままかなたの言葉を聞いている。

「ウォル?冗談だよ。そんな悲しそうな顔しないで」

かなたは、両腕をほどくと両足を水から出し、持ってきていたタオルで足を拭いてから靴を履いた。

「綺麗な花がたくさんあるね」

色とりどりの花をかなたが摘んでいく。
その後に続く、ウォルのシルバーの瞳は少し悲しみをたたえていた。
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