拒絶された後の憂さ晴らし
食べ終わったランチのトレーを下膳台に置き、横目で二人の様子を伺う。


箸を置いたままだったアノ子は再び食べ始めて、添野と話をしているのか、表情に微笑みが混じっているかの様に見受けられる。


添野の目尻が下がり口角が上がっている様にも見えて、腹立たしく思う。


私を拒絶したくせにアノ子と仲良くしているから?


アノ子も乗り気ではなかったのに、私が席を外してからは添野と話し出したから?


もしかしたらヤキモチ?


様々な憶測が頭を過ぎるが、結論には至らない。


頭の中のモヤモヤが晴れず、ご乱心中な私は真っ先に喫煙所へと向かう。


幸い誰も居なかったので、心身共に安らぐと心底思った。


火をつけて口元に煙草をあてた瞬間に扉が開く音がして、ふと見てしまう。


「あっ、」


喫煙所に入って来た人物に気を取られ、思わず声に出してしまった。


そこには、意外な人物が居たのだ。


目の前には、会いたくても会えなかった元カレが立っていた。


新入社員で入社した時に同じ部署だった先輩であり、人生で一番好きだった人物。


海外転勤になり、あっさりと私を置いて行き、連絡の一つもなかった人物。


何も言わずに私を眺めている。


忘れていた感情を思い出したのか、見られている事が恥ずかしいのか、鼓動は早くなり、頬が赤らむ。


胸が張り裂けそうな位に心臓の鼓動が早くなり、呼吸が出来なくなりそうだった。


辛いから、この場から逃げ出してしまおうか?


そそくさと煙草の火を消し、後ろを向いて一歩を踏み出そうとした時に腕を捕まれた。


「…モモ?」


紛れもなく、私は桃枝ことモモ本人。


久しぶりに呼ばれた名前に動揺を隠せない。
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