月と薔薇のプレリュード
すっかり暗くなってしまった。
日直として学校に残っていたせいで、帰る頃には日が沈み、群青色の空には一番星が輝いている。
吹き付ける冷たい風に身をさすりながら帰路を急いだ。
家は郊外にあるために、街灯の数が少なくて、人の気配もなくて、閑散としている。
歩道橋の階段を登りながら、ふと頭上に三日月が輝いているのが見え、夜空を仰ぎ見た。
まるで濃紺の幕に縫い付けられたスパンコールみたいな星々と月が、闇を煌びやかに飾っている。
「きれい…」
思わずポツリと声が出た。
冬に近づくにつれ、月の輪郭がはっきりとしてくるのはきっと空気が澄んでいるからだろうか。
透明度が増すに連れ、輝きが増す。
銀色の月から目が離せなくて、まるで囚われてしまったかのように上を向いて階段を上っていれば、自分がまるで空に吸い込まれていくような感覚だった。
不意に肌を刺すような鋭い風が、吹き荒れて、
「…ッ‼︎」
耳の近くで唸ったその轟音に体を竦ませて、目を瞑った瞬間、
階段から足を踏み外した私の体はグラリと後ろに傾いた。