月と薔薇のプレリュード
…落ちる‼︎
必死に階段の手すりを掴もうと手を伸ばすも、虚しく手は宙を切って、
空に輝く月に手を伸ばすようにして、落下する。
浮遊感に襲われた体は衝撃に備えて強張った刹那ーー
「……ッ‼︎」
コンクリートの硬さではなくて、柔らかい温もりに抱きかかえられて息を飲んだ。
ふわり、と懐かしい匂い。
緊張で強張った体が、ゆるゆると解けていく。
「……相変わらず危なっかしいね」
低いハスキーボイスが耳をくすぐって、ハッと息を飲んだ。
「…る、と?」
冷たい月光を透かすミルクティーのようなブラウンヘアが緩やかに風になびく。
夏の淡い月のような丸い琥珀色の瞳が、真っ直ぐ私を見つめている。
3年ぶりの彼は、静かな笑みを携えていた。
「久しぶり、花音」
形のいい唇が、3年ぶりに私の名前を紡いだ。
綺麗な旋律を聞いているかのような感覚。