月と薔薇のプレリュード
「ちょっと真、どういうこと」
「そのままの意味だよ、お馬鹿さん」
「むっかつく! 私の豪速球を打てないへなちょこに言われたくないわよ!」
「朝からキーキー怒らないの、血圧低いの?」
「あ〜〜っ、もう!」
毎度ながら繰り広げられる真と柚菜の戯れ合いに、笑みを漏らす。
中高一貫だから、二人とは、かれこれ4年以上の付き合いになる。
朝からのこの騒がしさは慣れっこだ。
傍観していると、真が私の方を向いた。
「花音、おはよ」
サラサラの黒髪が靡いて、微かに柔軟剤のいい匂いがしたような気がした。
おはよ、と私も返すと、真は顔をしかめながら口を開いた。
「今日、数学のテストだよなぁ」
「真は得意なんだから、いいじゃない」
数学が苦手な私は肩を竦めれば、
「まあな」
と得意げな笑みを浮かべる。
中学時代からすば抜けて頭が良い真。
今回もどうやら余裕そうで。
皮肉でも叩こうかと思ったけれど、
「どこからそんな自信が来るんだか!」
と、代わりに柚菜が、フンッと鼻で笑いながら口を開いた。
「なに、柚菜、自分ができないからって僻み?」
「言っておくけど、英語は私のほうができるから」
「英語’だけ’、な」
フッと鼻で笑う真に、柚菜がまた悔しそうに言い返していた。