月と薔薇のプレリュード






「花音、なにか良いことあった?」

「良いこと?」




真の言葉を繰り返しながら、私まで首を傾げる。


なんで、いきなり。


突拍子もない質問を不思議に思っていれば、柚菜がうんうんと頷きながら、真の言葉に同意する。





「だって、いつもなら花音も数学のテストで体力削られて机に突っ伏しているのに、今日は楽しそうだし元気だし」

「失敬な」



柚菜の言い草に、肩を竦める。



「でも、本当に今日はいつもと違って楽しそう」





そう言われてみて、思い当たる節は……、





「あ、」



「「あ?」」




私の呟きに、真と柚菜の声がハモる。

興味津々な視線を向けられていて、ハッと我に返った。




「いや……、なんでもない」



あはは、と軽く笑い流そうとしたけれど、二人はそれを許さないようで、やけに食いついてきた。




「なにその微妙な間は!!途中まで言ったら気になるよ!!」

「た、大したことじゃないんだけど…」




気迫に圧倒されながら、そう前置きをして、思い当たった節が明後日帰国する琉斗だということを話す。





「3年ぶりに会うから、少し楽しみというか、なんというか」




照れ臭くなって、語尾を曖昧にしていれば、柚菜の目が一段とキラキラ輝き出す。



さっきまでは死んだ魚のようだったのに…




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