良薬は口に苦し


 「えっ?………先生、なんで?」

 「う…ん。
君の顔が曇って見えた。
凄く辛そうで、その根本的な原因は何か思い当たる事があるんじゃないかって思ったんだ。
秘密は守るよ。
だから、心に溜まっているものを全部吐き出して楽にしたらどうかな?」

 「……先生は霊的なもの信じますか?」

 「信じるよ」

 「………本当に?」

 「本当さ」

 「私………
頭がおかしくなったのかも?って、ずっと悩んでました。

 別れた彼が毎日帰ってくるんです。
姿は見えないんです。
私のアパートで彼と同棲していたんです。
別れてからも、彼が仕事から帰る時間になると必ずインターフォンが鳴るんです。
彼が帰ってきたかと思って、恐る恐る開けても誰も居ない。
近所の子供のイタズラだと思ってました。
でも………毎日、毎日決まってその時間に鳴るものですから………」

 「わたしもよく子供の頃、ピンポンダッシュをして怒られましたよ」

 俺は少しでも彼女を和ませようと笑った。

 「先生………
毎日続くから、その時間に玄関に居たんです。
ピンポンって鳴って直ぐにドアを開けても、そこには誰も居ないんです。
子供のイタズラなら逃げ足も聞こえるはずだし、直ぐに開けて確かめているので、逃げる姿だって見えるはずですよね?

 でも、誰も居ない。

 とうとう、幻聴まで聴こえるようになったのかと思いました。
かなり自分でもヤバイと思いだして、その時間にナナミに一緒に居て貰ったんです。
ナナミとはお店でお会いになりましたよね?」



 はい。しっかり覚えてます。
女狐さんですね。


「あっ、旬のお気に入りの子ね」

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