良薬は口に苦し


 「今西さん、来てくれて有難う」


 今西薫子か………
桃子の本名のようだ。
まぁ、あぁいう仕事は源氏名で働く人も多いよな。

 しかし、夜の顔とはすっかり別人に見える。
薄化粧で表情は暗く、どんよりしている。

 「あの…里中さん…あ、いや…先生。
あの………私、涙が止まらないんです。
朝からずっと油断していると涙が…………」

 目の前の今西薫子は目に涙をいっぱい溜めていた。

 「今西さん、他には辛いとこない?」

 「首筋や背中にかけて針を刺されたみたいにチクチク痛いんです。
私、もうどうしたらいいか、分からなくなりました」

 薫子は泣いてしまった。



 そうだね………
辛いね。
君の背中にべったり彼氏の怨念が貼りついているからね。


 「今西さん…
今西さんは、最近誰かと喧嘩なんかしたかな?」

 彼女はきょとんとした顔で俺を見る。
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