主任とルームシェア始めました

私は途中、自販機でカフェオレを買って、席に戻った。

隣の席には、もう哲平が座って仕事をしていた。

私は、パソコンを起動させている間に、カフェオレを飲んで、ひと息つく。

「なぁ、遥ぁ。」

哲平が椅子のキャスターを滑らせて寄ってくる。

「何?」

警戒した私が冷たい声で答えると、

「この仕様書なんだけど…」

と開いたファイルを指差す。

哲平が、今朝、田口係長から引き継いだ仕事だ。

「ここ、桁落ちしててファイル名とか
読めないんだよ。
多分、データには入ってるんだと思うん
だけど、このデータどこに保管してあるか、
分かる?」

見ると、セルから桁落ちした分が印刷されていない。

「ああ、ほんとだ。
これはねぇ、資料室の…っていうか、説明
しても分かんないから、案内するよ。
来て。」

私は立ち上がって歩き始めた。
哲平には関わりたくないが、仕事は別だ。

フロアの端の電子ロックが付いた扉の前に来ると、

「暗証番号を入れて中に入るんだけど、月一で
変わるから覚えて。
今月は3538。
メモは禁止ね。
で、番号を入れてここを押すと開くから、中に
入って、うちの課のエリアがここ。」

説明して、元データと思われる媒体を取り出そうと、上の棚に手を伸ばす。

すると、背伸びした私の肩に手を掛けて、哲平が取り出してくれた。

「これ?」

その距離の近さに、不覚にもドキドキしてしまう。

「そう。」

と答えた私の顔を覗き込んで、哲平はふっと笑った。

「やっぱり遥は、かわいいな。」

「へっ?」

私は焦って、肩に掛かった哲平の手を振り払った。

「ふ、ふざけないでよ。
もう、いいでしょ?
出るときはオートロックだから、扉だけ
きちんと締めておいてくれれればいいから。
私、先に行くね。」

私は、哲平をおいて、先に資料室を出た。


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