恋が枯れるまえに、約束を
私は頷けば、彼の手を取らずに
一人で立ち上がった。


が、少し立ちくらんでしまい、反射的に
彼のネクタイを引っ張ってしまう。


「わっ」


それにより、距離が縮まれば、
思わず彼を押し返してしまった。


「あ…あ…っごめんなさ…ッ」


あまりにも近い距離に驚いて、理不尽に
人の優しさを仇で返してしまった。


「本当に、本当に……」


そうして謝ったり謝られたりの繰り返しが、
彼を不満にさせてしまう。


「…はあ、そんなに怯えんなよ
そそっかしいな」


しびれを切らしたのか、そう吐き捨てるように
言えば、今度は彼が立ち上がった。


「……すみません」


「それやめて」


「はい…」


明らかに初めとは打って変わり態度が
少しだけ荒々しい。


怒らせちゃった…。


そりゃ勝手に驚いて資料ばらまいた挙句、差し伸ばされた手を退けては押し返してしまったのだから。


しかも、ネクタイの色からして
1つ上の先輩だし……。


まだ日も浅いのに、悪い印象を
与えてしまうなんて。

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