恋が枯れるまえに、約束を
それでも、
そう言う彼女に対し、私は少しの間、
何も返答できなかった。
それに対し、ためらう事なんてないけど、
ただ、思い出してしまったんだ。
“彼”との過去を────。
それがトラウマのきっかけだとしても…
だって私は、忘れたくない。
砂浜の音も、海の潮の匂いも、海から近い
電車の音も、そこで過ごした“彼”との思い出も。
忘れたくない、一欠片も溢さずに受け止めたい。
でも、残酷な真実だけが私の手から
抜け落ちていくように認めたくない。
…あれから6年経ったのに、
なんて私は未練深いんだろうね。
彼もどこかで呆れているのだろうか。
──ねえ、“柊”────?
あの日交わした君との約束が果たせぬまま、
もうどれくらいその日が繰り返されたんだろう。
まだ、交換日記は君が持ったまま。
君の過ごしてきた6年間を教えて
欲しいよ。
できればずっと側で、君の隣で、
同じ景色を見ていたかったよ。
それがきっとなによりも美しくて、
眩い景色で、それが一番、
私が見たい世界だから────。