恋が枯れるまえに、約束を

それでも、



そう言う彼女に対し、私は少しの間、
何も返答できなかった。


それに対し、ためらう事なんてないけど、
ただ、思い出してしまったんだ。


“彼”との過去を────。


それがトラウマのきっかけだとしても…


だって私は、忘れたくない。


砂浜の音も、海の潮の匂いも、海から近い
電車の音も、そこで過ごした“彼”との思い出も。


忘れたくない、一欠片も溢さずに受け止めたい。


でも、残酷な真実だけが私の手から
抜け落ちていくように認めたくない。


…あれから6年経ったのに、
なんて私は未練深いんだろうね。


彼もどこかで呆れているのだろうか。



──ねえ、“柊”────?



あの日交わした君との約束が果たせぬまま、
もうどれくらいその日が繰り返されたんだろう。


まだ、交換日記は君が持ったまま。


君の過ごしてきた6年間を教えて
欲しいよ。


できればずっと側で、君の隣で、
同じ景色を見ていたかったよ。


それがきっとなによりも美しくて、
眩い景色で、それが一番、



私が見たい世界だから────。
< 34 / 123 >

この作品をシェア

pagetop