社内恋愛狂想曲
「志織……次は伊藤と付き合うん?」

蚊の鳴くような声で葉月が呟いた。

「えっ?今なんて?」

思いもよらぬ言葉が葉月の口から出てきたことに驚いて、思わず聞き直してしまった。

あまりにも小さな声だった自覚はあるんだろう。

葉月は私が葉月の言葉を聞き逃してもう一度言うように促したのだと思ったようだ。

「いや、いいわ、なんでもない。じゃあまた仕事の後でな」

それだけ言うと、葉月は急ぎ足で営業部のオフィスに入ってしまった。

いつもなら言いたいことはキッパリ言って、聞きたいことはハッキリ聞くのに、やっぱりおかしい。

何があったんだろうかと思いながら商品管理部のオフィスに戻っている途中で、私は大事なことを思い出した。

週末にいろいろありすぎて、金曜日に護と会う約束が今日の晩になっていたことをすっかり忘れていた。

護の方が先約だから優先するべきかと思ったけれど、今の私にとっては護より葉月の方が大事だ。

もしかしたら護も私との約束なんか忘れているかも知れないけれど、今日は会えないとあとでメッセージを送っておくことにしよう。



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