社内恋愛狂想曲
「だったら奥田さんが彼にとって彼女以上の女になればいいんじゃない?」

「だから佐野主任に相談してるんですよ。私に足りないものってなんだと思います?」

奥田さんは鏡に向かったまま、ファンデーションを塗り直しながら淡々とした口調で尋ねた。

完全に私に喧嘩を売ってるわけね。

さっきの言葉、私には「さっさと彼から手を引け」と言っているようにしか聞こえなかった。

でもここで感情的になって声を荒らげるのは大人げない。

ここは何がなんでも大人の女に徹してやろう。

「男の人って単純だから、彼が好きな料理を上手に作れるようになれば、奥さんにしたいって言われるかもね」

奥田さんは料理が苦手だと知っていてそう言う私もかなり意地が悪いと思う。

だけど私が護に好かれていると胸を張れるのは、それくらいしかないのだからしょうがない。

「料理ですか……。だけど作らなかったら意味ないですね」

てっきり「私、料理は苦手なんですぅ」とか言うのだろうと思っていたのに、意外な返しに少し驚いた。

奥田さんは“料理ができないからなんだって言うの?”って顔をしている。

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