社内恋愛狂想曲
定時で仕事を終わらせて帰り支度をしていると、有田課長に手招きで呼び寄せられた。

「佐野主任、さっき新人ちゃんから電話があったよ」

昨日派手にミスをやらかしてしまった彼女は本当は山村さんという名前なのだけど、いつまで経っても簡単な仕事も覚えないことから、部署では密かに新人ちゃんと呼ばれている。

今日は体調が優れないという理由で欠勤していたけれど、少し前に「会社を辞めます」と連絡があったそうだ。

予想通りと言えば予想通りだけど、単純に昨日のミスを咎められたという理由ではないらしい。

「新人ちゃん、できちゃったんだってさ」

「……と、申しますと?」

「昨日も調子が悪くてぼんやりしてたらしいんだけど、今日はあまりにも気分が悪くて病院に行ったら妊娠してたんだってさ。いわゆるつわりってやつ」

なるほど、それで昨日のミスに繋がったわけだ。

妊娠初期は注意力が散漫になったり、情緒も不安定になりやすいと千絵ちゃんが言っていた。

有田課長からミスを指摘されて号泣したのも、きっとそのせいなのだろう。

「そういうことなら仕方ないですね、妊娠後に仕事を続けるのも辞めるのも本人の意思ですから。今月末で退職ということですか?」

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