社内恋愛狂想曲
はぐれないように気をつけながら人混みを通り抜けて券売機の前まで進むと、貼り紙のされた案内板が出ていて、駅員が対応に追われていた。

「あー……原因はこれだ」

三島課長は貼り紙を見ながら呟く。

電気系統の故障でしばらく電車が止まっていたらしい。

幸い先ほど復旧して、現在は通常通り運行しているようだ。

「混んでるけど電車は動いてるみたいだな」

「良かったですね」

切符を買って自動改札機を通り、ホームではときどき周りの人とぶつかりそうになりながら、やっとの思いで混雑した電車に乗り込んだ。

電車の中は朝のラッシュアワー並みのすし詰め状態だった。

混み合った車内はただでさえ息苦しいのに、たくさんの人が放つ体臭や、衣服に染み付いた柔軟剤や香水などの香りが入り雑じった臭いが充満してさらに息苦しい。

三島課長は、周りの人たちに押し潰されそうになって立っているのもやっとの体勢の私の背中に空いている方の手を回して、倒れないように支えてくれた。

電車がブレーキをかけて減速するたびに大きく揺れて、私の体は三島課長の体に寄りかかるような格好でさらに密着してしまう。

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