社内恋愛狂想曲
……あぶないあぶない。

いくら気分が盛り上がっちゃったとはいえ、婚約者のふりをするだけなのに、それはイカンだろう。

だって三島課長には好きな人がいるんだよ?

私のことなんか好きでもないのにそんなことされたら、三島課長もやっぱりただの男なんだなと幻滅してしまいそうだから、手を繋ぐくらいはともかく、その一線は超えない方がいい。

電話を終えた三島課長はスマホをポケットにしまい、ばつの悪そうな顔をして振り返った。

「……ごめん、調子に乗りすぎた。そろそろ帰ろうか」

「はい」

それから私たちは、ぎこちなく手を繋ぎながら、さっきより口数も少なく私のマンションまでの道のりを歩いた。

マンションの前に着くと、三島課長は私と荷物を交換し、「さっきはごめんな。明日のことはあとでトークにメッセージ送るから」と言い残して帰って行った。

私はその後ろ姿をぼんやりと眺めながら小さくため息をついた。

きっと三島課長は、今日一日私と恋人らしく振る舞わなければと気負いすぎて、うっかりその気になりかけてしまっただけなのだろう。

そのことをいつも会社で会うときと同じ顔で謝ったというのが、何よりの証拠だ。

それは拒めなかった私も同じだから、一方的に三島課長を責める気はない。

ただ、今後はこういうことがないように、あまり距離を縮めすぎないようにしようと思った。



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