社内恋愛狂想曲
私たちは三島課長を呼ぶ女性の声に振り返る。

三島課長はその女性を目にした瞬間、握っていた私の手を離した。

「芽衣子……」

三島課長の口から発せられたその女性の名前を聞いたとたんに、私の胸がイヤな音をたてた。

三島課長は芽衣子という女性をじっと見たまま動かない。

もしかしてこの人が三島課長の想い続けた人なのかと思うと急激に呼吸が苦しくなり、私は一刻も早くその場から立ち去ることしか考えられなかった。

「やっぱり私、一人で帰ります!三島課長、今日はありがとうございました!」

私は早口でそう言って頭を下げた。

「えっ……志織、ちょっと待って!」

何も聞きたくない一心で、その場から逃げるように走って三島課長の家を飛び出した。

走って駅に向かっていると、目の前がじわりとにじんで、街の灯りがぼやけて見えた。

泣いてたまるか。

最初からわかってたことなのに、泣く必要なんかないじゃないか。

そう自分に言い聞かせるのに、聞き分けのない涙は私の意思を無視して勝手に溢れ出す。

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