社内恋愛狂想曲
立ち止まって涙を拭うと、渇いた笑いが口からもれた。

「はは……いい歳して情けないな……」

涙が止まるまで、うつむいて歩き続けた。

本気で好きになる前で良かった。

今ならまだ、偽婚約者のことはなかったことにできるだろう。

そうすれば三島課長は好きな人と堂々と付き合えるし、本物の婚約者として周りのみんなに紹介できる。

私も束の間の甘い夢を見せてもらったと思えばいいだけだ。

軽く吹けば一瞬で消える頼りない灯火のような、あまりにも短い夢だったけれど。


駅のトイレで涙が止まるのを待って、なんとか終電間際の電車に乗り込んだ頃には、すでに日付が変わっていた。

鞄の中で何度かスマホが震えていたような気はしたけれど、相手が誰であっても電話やトークのメッセージに応えるほどの気力はなかった。

電車の中でぼんやりと窓の外を眺めながら考える。

好きになった人に好きな人や恋人がいるなんてよくあることだし、私にはそれを責める権利などないのだから、三島課長には今まで通りに接することにしよう。

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