社内恋愛狂想曲
それに私のこの気持ちも、裏切られて傷付き弱っていたところを優しくされて、勘違いしただけのものなのだと思う。

もし三島課長に本物の婚約者を紹介される日が来たとしても、笑って祝福しよう。

電車を降りると、いつもより時間が遅いせいで辺りは暗くて静かだった。

普段の帰り道なら営業している飲食店も、すでに閉店して灯りが消え、本通りから筋をひとつ入ると人通りもほとんどない。

こんな時間に一人で夜道を歩くのは不安で気味が悪いので、周りを警戒しながら足早に家路を急いだ。

ようやくマンションの前にたどり着き、家の鍵を出そうと鞄のポケットを探っていると、駐車場の方から車のドアが閉まる音がした。

こんな時間に帰ってくる人は他にもいるんだなと思いながらマンションに入ろうとしたところで、すぐ後ろに人の気配を感じ、肩をつかまれて体がこわばり声も出ない。

「志織!」

聞き慣れた声におそるおそる振り返ると、私の肩をつかんでいたのは三島課長だった。

「あ……」

ホッとしたのと同時に、どうしてここに三島課長がいるのかと混乱して、言葉が出て来なかった。

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