社内恋愛狂想曲
「ずっと前にうちを出たはずなのに帰りが遅いから心配した。おまけに何度電話しても出ないし」

あの人は?

どうしてここにいるの?

そう聞きたい気持ちをグッとこらえて、散らかった頭の中でうまいいいわけを考える。

「電車でうたた寝して、乗り過ごしたら遅くなってしまって……」

「だから送るって言ったのに。なんで勝手に帰った?」

そんなこと、いちいち聞かないで欲しい。

あの人を見たときに私の手を離したのは、あの人に私との関係を誤解されたくなかったからだってことくらいわかるから。

「お客様がいらしてたので……。伝え忘れてましたけど……あの方、昨日も夜遅くに訪ねて来られたんです。だからよほど大事な用なんじゃないかって思って」

「そうか……。あの人は昔の同僚で、また本社に戻ることになったからって挨拶に来ただけなんだ。気を遣わせて悪かった」

その言葉が嘘を含んでいるということはすぐにわかった。

同じ部署で働いていた私は、三島課長がいくら親しい同僚でも名前で呼び捨てにしたりしないことくらい知っている。

女性ならなおさらだ。

おそらくあの人は、ただの同僚以上の関係だったのだと思う。

だけどそれは私には関係のないことだから、詮索したりはしない。

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