社内恋愛狂想曲
指先のケガは料理をしているときにしたのかも知れない。

かげで護にあんなひどいことを言われていることも知らずに頑張っているのかと思うと、嘘を教えてしまった罪悪感でまた良心が痛む。

「料理なんて慣れだからね、続けてるうちにできるようになるよ」

「そんなものですか?」

「うん、でもまずは具材の大きさを揃えて切るとか、火の通りにくいものから先に入れるとか……あと、火力の調節とか、基本的なことをちゃんとやるのは大事だよ。その卵焼きも、一回に流し込む卵液の量が多すぎるから分厚くなって、火が通る前に焦げて固くなってうまく巻けないんじゃない?」

罪滅ぼしとまでは言えないほどの簡単なアドバイスをすると、奥田さんは不格好な卵焼きを箸でつまみ上げて、真剣な顔をしてうなずく。

「なるほど……参考にします」

なんだか今日はやけに素直だ。

私に食って掛かる元気もないほど落ち込むようなことでもあるんだろうか。

ついこの間までは護の浮気相手として憎くてしょうがなかったはずなのに、今日の奥田さんはあまりに痛々しくて見ていられなくなり、また私のお節介な老婆心に火がついてしまう。

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