社内恋愛狂想曲
まさかお礼を言われるとは思っていなかった。

……ちょっとかわいそうなことをしたかな。

そう思わなくもないけれど、これも奥田さん自身の蒔いた種が起こしたことの結果だ。

それを重く受け止めた上で、早く立ち直ってくれるといいなと思う。

護と奥田さんがいなくなると、瀧内くんはたちまち上機嫌になった。

「邪魔者もいなくなったことだし、飲み直しましょう」

瀧内くんはメニューを開き、サイコロステーキの写真に目を輝かせている。

「大至急って……そんな大きなトラブルがあったの?」

どうしても気になって尋ねると、瀧内くんは楽しそうに笑った。

「あじさい堂の担当者の旦那さんが、泥酔して会社に乗り込んでるそうです」

「えっ?!」

予想を上回るまさかの泥沼展開に、瀧内くん以外のみんなが思わず声をあげた。

「奥さんが失踪したんですって。橋口先輩と一緒にいるんだと思ってるみたいで、会社の受付で“橋口を出せ”ってわめき散らして、警備員をなぎ倒してるらしいですよ。来週は橋口先輩に会えるかなぁ……。立て替えたお金を返してもらえるといいんですけどね」
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