社内恋愛狂想曲
一人になった私はなんとなくまっすぐ帰りたくなくて、電車に乗る前にコーヒーでも飲もうと、駅前のコーヒーショップに行くことにした。

コーヒーショップの手前に差し掛かったとき、この間三島課長と一緒に食事をしたイタリアレストランから三島課長とあの人が出てくるのが見えた。

少し酔っているのか、店の前の段差につまずいた芽衣子という女性が、とっさに三島課長の腕にしがみつく。

三島課長は心配そうに声をかけてその体を支えた。

私は立ち止まって二人の姿を呆然と見つめる。

「……やっぱり帰ろう」

ひとりごとを呟いた瞬間、こちらを向いて三島課長が顔を上げた。

私がここにいることを三島課長に気付かれないように、すばやく踵を返して駅に向かう。

三島課長は“また本社に戻ることになったから挨拶に来ただけだ”と言っていたけど、きっと本当はそうじゃない。

私は二人がこんな時間まで食事を楽しみ、触れ合っても平気な関係なのだと悟った。

最初から三島課長の心にはあの人がいて、私は恋愛の対象になり得ない、ただの偽婚約者だったんだ。




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