社内恋愛狂想曲
「佐野、モテ期が来たんだってな」

おそらくあの噂のことを言っているんだろう。

噂はただの噂だとわかっているくせに、私を冷やかしたくて仕方がないらしい。

「そんなもの私のところには一度も来たことないよ。それなのになんであんなわけのわからん噂が……」

「みんな会社っていう狭い囲いの中の単調な毎日に退屈して、他人のくだらない噂を餌に楽しんでるんです。根拠があろうがなかろうが、面白けりゃなんでもいいんですよ、他人事ですからね」

確かに瀧内くんの言う通り、噂なんてのは無責任なものだ。

遠くの芸能人の熱愛より、身近な同僚の噂の方が想像をかきたてられて話が膨らむから、暇潰しのネタにはちょうどいいのだろう。

「他人事でも気分悪いけど、今回私は当事者だからね。全然面白くないよ」

「だったらそれをうまく利用してやればいいんです。前も言ったでしょう?餌を撒けば勝手に美味しくいただいてくれるって。二次会辺りで新しい餌を撒いてみませんか?」

そう言って瀧内くんは、またあの背筋が寒くなるような笑みを浮かべた。


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