社内恋愛狂想曲
「ところで昼間に電話なんて珍しいけど、何か急ぎの用でもあった?」

さりげなく本題に入ることを促すと、母は本来の目的を思い出したらしく「ああ、そうだったわ」とのたまった。

自分から電話をしてきたくせに、案の定忘れていたようだ。

これが葉月なら「忘れとったんかい!」と激しく突っ込むに違いない。

「佳世子(かよこ)姉ちゃんから今朝電話もらってね、千絵(ちえ)ちゃん無事に赤ちゃん生まれたってよ。男の子でね、母子ともに元気だって」

「わぁ、そうなんだ。良かったぁ」

佳世子姉ちゃんというのは母の姉、つまり私の伯母にあたる人だ。

その娘の千絵ちゃんは子供の頃から今に至るまでずっと、ひとまわりも歳が離れたいとこの私を妹のように可愛がってくれている。

「それでね、千絵ちゃんが早く志織に赤ちゃんを見せたいって言ってるんだって。ちょうど休みだし明日か明後日にでも病院に行って抱かせてもらえば?」

「出産したばかりで疲れてるのに行っても大丈夫かな?」

「病院にいる間の方がゆっくり休めるの、赤ちゃんの世話だけでいいんだから。いくら産後の面倒を母親が見てくれるって言ったって、家に帰れば上の子たちが二人もいるんだから、赤ちゃんだけってわけにはいかないでしょ?おまけにまだ二人とも小さいし大変よ」

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