社内恋愛狂想曲
潤さんは少し甘えた口調でそう言って、私をギューッと抱きしめる。

会社にいるときとは別人のような潤さんのかわいさに、私の母性本能がこれでもかというほどくすぐられた。

「……そんなに私のこと好き?」

恥ずかしくて今まで誰にも言ったことはないけれど、一度は言ってみたかった台詞だ。

普通ならここで、冷ややかな視線と共に“は?何言ってるの?”などという冷たい言葉が浴びせられそうなものなのに、潤さんは素直にうなずいた。

「そりゃもう、めちゃくちゃ好きに決まってるだろ」

あまりにもストレートすぎる返事に胸がキュンと甘い音をたて、思わず顔がにやけてしまう。

今までこんなに愛されたことがあっただろうか?

いや、ない。

そして私自身もこんなにも誰かを好きだとか、愛しいなんて思ったのは初めてだ。

3年も付き合った護でさえ、好きだと思ってはいたけど胸がしめつけられるほど好きではなかったし、浮気をされたことがショックだと思いはしても、“この人がいなければ生きていけない”とか、そこまでのダメージも受けなかった。

私も潤さんと同じで、好きだと言ってくれた人を受け入れて好きになった気でいるだけの、受け身の恋愛をしてきたのだとつくづく思う。

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